第17回 ポテンシャルエネルギー=力に逆らっている度合い=居心地の悪さ
重力の働いている物体のエネルギーを求めよう。物体内の構成分子の運動や分子間の力は考えず、物体全体としてもつエネルギーを考える。物体のエネルギーは運動エネルギーと重力のポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)の和で与えられる。運動エネルギーは物体の運動に伴うエネルギーであり、物体が静止していればゼロである。重力のポテンシャルエネルギーは物体が重力に逆らっている度合いを表す。物体が地面から高さx1にあるときの重力のポテンシャルエネルギーU(x1)に比べて、x1より高い位置x2に物体があるときの重力のポテンシャルエネルギーU(x2)の方が高い。
なぜなら、高い位置の方が重力に逆らっている度合いが大きいからである。したがって、横軸に物体の位置x、縦軸に重力のポテンシャルエネルギーU(x)をとると、xの増加とともにU(x)が増加するので、右上がりの直線になる(図1)。
図1 重力のポテンシャルエネルギー
重い物体ほどxの増加とともにU(x)が増加する割合が大きくなるので、傾きは急になる。逆に軽いほど傾きは小さい。すなわち、重力=- (重力のポテンシャルエネルギーU(x)の傾き)の関係がある(図2)。
図2 ポテンシャルエネルギーの傾きと力
この式はポテンシャルエネルギーの定義になる。U(x)に定数を加えても傾きは変わらないので、U(x)の原点(基準面)を任意に選ぶことができる(たとえば、地表を基準面に選ぶ)。また、この式の右辺の負符号は重力がx軸の負方向を向く力であることに対応している。一般に力F(ベクトル量)とポテンシャルエネルギーU(スカラー量)の関係はF = -gradUである。
一般にある場所のポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)はその場所の居心地の悪さを表す。物体は居心地の悪い重力のポテンシャルエネルギーの高い場所から居心地の良い重力のポテンシャルエネルギーの低い場所へ落下しようとする。他のポテンシャルの例として、電位と化学ポテンシャルがある。電荷にとっての居心地の悪さを表す電気的位置エネルギーが電位(電気的位置エネルギーの略語)である。電位・電荷は正負の符号があるので、大きな正の電位は正電荷にとって居心地が悪いが、負電荷にとっては居心地が良い場所である。また、化学ポテンシャルは「化学的な居心地の悪さを」表す。溶液中の高濃度の場所は溶質分子の化学ポテンシャルが高い場所で居心地が悪い。一方、溶媒分子にとっては化学ポテンシャルが低く居心地が良い(図3)。さらに、分子間引力の働いている2個の分子を引き離そうとすると分子間引力に逆らうことになるので、分子間引力のポテンシャルエネルギーが増加する。
図3 種々のポテンシャルエネルギー