武田コロイドテクノ・コンサルティング株式会社

第15回 2枚の平行な鏡の間に働くvan der Waals引力-Casimir力

第14回コラムで述べたLifshitz理論の基になったCasimir理論を紹介する。Casimir はマクロな視点にたって、真空中で距離h離れた2 枚の平行な金属平板(完全導体の鏡)間の相互作用を計算した。平板内に生じたゆらぎ電磁場が電磁波として平板外へ放出される。Casimirは、電磁波が平板に及ぼす圧力(輻射圧)を計算し、平板間に単位面積当たりP(h) = -π2c/240h4c = 高速度)の引力が働くことを示した1)。1枚の平板の両側または2枚の平板が無限に離れているとき,それぞれの平板の両面には等しい大きさの圧力が加わる。平板間距離hが小さくなるにつれ,平板間の領域では境界条件を満たす特定の波だけが存在を許され,他の波は干渉で消える。このような特定の波の数は2 枚の平板の接近とともに減少する。一方,平板の外側(背面の領域)では,あらゆる電磁波が存在する。この結果,平板の内側の面に働く輻射圧は背面に働く輻射圧より小さくなり(図1),平板間にCasimir力とよばれる引力が働くことになる。


図1 h離れた2枚の金属平板間に働くCasimir引力

鏡の間のCasimir力と同じ原理に基づく引力が波の荒い海面上の2艘の船の間にも働くという説もある2)(図2)。


図2 2艘の船の間のCasimir力. 船と船の間にはそこにフィットする波のみ存在できる。

Casimir力は涸渇引力の一種である。高分子溶液中で2個の粒子が高分子のサイズ以下まで接近すると粒子間に高分子が入れず、粒子には背面からの高分子の浸透圧のみ働き粒子間に涸渇引力が働く(図3に平板状粒子の場合を示す)。これは朝倉-大沢理論として知られる。


図2 高分子による涸渇引力.


《文献》
  1. H.B.G. Casimir, On the Attraction between two perfectly conducting plates. Koninkl. Ned. Akad. Wetenschap Proc. 51, 793-795 (1948)
  2. S. Boersma, A maritime analogy of the Casimir effect. Am. J. Phys. 64. 539-541 (1996).
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